19世紀後半から20世紀前半、ロンドンの深い霧の中、鹿撃ち帽(ディアストーカー)にフロックコート、口には大きなパイプをくわえた長身痩躯の男が街を行く。
ご存知シャーロック・ホームズだ。
イギリスの小説家アーサー・コナン・ドイルが創造したこの探偵は、もはや知らぬ者のいない名探偵の代名詞でもある。
その推理力は快刀乱麻を断ち、その行動力は地面を這ってでも事件を解決する。
幼い頃あるいは大人になってから、ホームズ譚を読んだことのある人も多いだろう。また近年、新たなタイプのホームズとなって映画化もされた。
しかし、この名探偵が活躍する4長編と56短編の全60編には意外とつじつまの合わないおかしな点が多いことをご存知だろうか。
以下にそのほんの一部をご紹介するが、これはちょっとした推理小説好きなら多くの人が知っていることで、筆者独自の見解ではないことを先に断っておく。
case1~『まだらの紐』におけるヘビの謎~
作者であるドイル自身も自薦1位にあげる『まだらの紐』だが、この事件の核心であるヘビにはおかしな点が多い。
まず、このヘビは金庫でこっそりと育てられたとの記述がある。しかし、金庫でヘビが育てられるものだろうか。窒息しないのだろうか。
また、ミルクを与えられてこのヘビは調教されたそうだが、ヘビは爬虫類なのでミルクは飲まない。
そして、この事件の犯人はこのヘビを口笛を吹いて呼んだが、ヘビにはいわゆる耳がないので口笛の音は聞けないのではないだろうか、といった疑問が呈されいる。
case2~『黄色い顔』におけるホームズの推理の謎~
ホームズの観察力が驚くほど鋭いことは言うまでもない。彼は依頼人の外見から、ときに足音から、ときに置き忘れていったパイプから、依頼人の職業や性格を見抜いた。
しかし、この観察にもときにおかしな点が存在した。たとえば、『黄色い顔』においてホームズは依頼人の置き忘れていったパイプから持ち主の利き手を推理する。
曰く、パイプの吸い口から見て右側が焦げているから持ち主は左利きだと。そしてマッチではなくランプで火をつけるから、左手でつける際に右側が焦げるのだと。
しかし、左利きだから左手でパイプを持つというのはいささか短絡的だ。むしろ、利き手で書き物等の作業をするために利き手ではない方の手でパイプを持つことも少なくないのではないだろうか。
いずれにせよ、これだけの情報で利き手を当てるのは困難だろう。
case3~身長6フィート(約180cm)の老婆の謎~
ホームズが変装の名手であったことも有名だ。けれど、ときとしてホームズは無茶な変装をすることがあった。
ホームズの身長はおよそ6フィート(約180cm)と作中で明言されている。
しかしホームズはその高身長にも関わらず老婆に変装しようとする。
180cmを越す老婆が街を歩いていて、ロンドンの市民はこいつは男の変装じゃないかと疑わなかったのだろうか。
case4~空白の三年後のホームズ変容の謎~
『最後の事件』にてホームズは宿敵モリアーティ教授とライヘンバッハの滝で争い、滝壺に落ちてともに死ぬ。
けれど死んだと思われていたホームズは三年後『空き家の冒険』で見事復活する。実は死んだのはモリアーティ教授だけだった。
こうして復活を遂げたホームズだったが、この空白の三年の前と後で明らかにホームズは趣味嗜好が変わってしまっている。
たとえば、空白の三年の前はホームズは熱心な音楽の愛好家だった。ユダヤ人の店でたったの55シリングで買った自慢のヴァイオリン、ストラディバリウスを熱心に演奏し、何度もヴァイオリンのリサイタルに足を運ぶ。
だが、空白の三年後ホームズはヴァイオリンの演奏をぴたりと止め、ヴァイオリンのリサイタルにもほとんど行かなくなってしまう。
唯一の例外として、『ノーウッドの建築業者』でヴァイオリンを弾いているが、それも気まぐれにかきならすだけで、弾き終わった後なんと自慢のストラディバリウスを放り出してしまう。
これは明らかに以前のホームズの音楽趣味を考えるとおかしい。
また、彼にはコカインの常用という有名な悪癖があったが、これも空白の三年の後一度も本文中に表れない。
この2つの趣味嗜好の変化は何なのだろうか。いったい空白の三年の間にホームズに何があったのだろうか。
solution~シャーロッキアンの存在~
今まで見てきたホームズ譚の謎はほんの一部にすぎない。まだまだたくさんの疑問点がある。
しかし、このたくさんの疑問点がシャーロッキアンあるいはホームジアンと呼ばれるホームズ研究家に火をつけた。
彼らはホームズ譚全60編(これを彼らは正典と呼ぶ)を駆使して、すっきりと説明をつけてみせようとしたり、あるいは様々な自説を唱えたりした。
曰く、「ホームズは二人いた、空白の三年以降のホームズは別人だ」や「いや、ワトスンが二人いたのだ」。さらに驚くべきものでは「ホームズは実は女性だった」や、中には「ホームズ=******」という説まである。
いずれにしても、多くの矛盾点がホームズ譚をさらに自由なものにし、様々な解釈を可能にしたことは間違いない。
ホームズ譚を読んだことがある人もない人も、今一度正典を紐解き、ドイルが残した謎(意図的にせよ無自覚にせよ)に挑戦するのも面白いかもしれない。
(文=樋口瞬)
ニャんでボクがこんな目に・・・!?
(2010年6月11日公開)
早稲田大学のあの噂って本当?
(2009年7月1日公開)
ネタバレ注意! 崖の上のポニョから学ぶ解釈学のススメ
(2010年5月24日公開)
【ぐーたら大学生が勧める】暇つぶしにいいかもしれない5つのiPhoneアプリ_
(2010年6月4日公開)
これで一安心? 腹鳴を一瞬で抑える裏ワザ!
(2010年5月31日公開)









Katsumura Kanako
2 ヶ月s 前
RT @MagNetPress: 新しい記事を書いたまぐ!: シャーロック・ホームズの誤謬 *ネタバレ注意 http://bit.ly/ceQyD6