【前編】ちばてつやという人生の描き方 -描く人の責任感と倫理観- ちばてつや氏インタビュー

2012年8月17日 記事の公開日時 7:00 pm

22

このエントリをはてなブックマークに追加

Pocket
【前編】ちばてつやという人生の描き方 -描く人の責任感と倫理観- ちばてつや氏インタビュー
 
 

この記事はMAG! 2012春号に掲載されています。
詳しくはこちらをご覧下さい。

あしたのジョー』『あした天気になあれ』など数々の名作を世に放ち、後世に多大な影響を与えた漫画家ちばてつや。一方で新人賞の選考委員や大学教授も務め、後進の育成に力を注ぐ。
漫画界の巨匠ちばてつやが語る若手時代の逸話から自身の仕事観、恋愛観。
あしたのために…得るものがあるだろう。

―ちば先生は最近の作品は読まれるんですか?

そんなに読むほうじゃないね。けど私は新人の漫画賞の選考をやっていて、そういう新人の応募作品はいっぱい読みますね。ただ私個人としては、あんまり漫画をたくさん読むほうではない。前はたくさん読んだけど、漫画家になってからはなんかちょっと辛いんだよね(笑)。

自分の本業だから、純粋に楽しめない。ここのところはこうすれば良いのにとか、こういう表現方法もあるのか、といつの間にか研究したりしててね。子どものときみたいに素直に漫画を楽しむことはできなくなっちゃったかなあ。

 

選考委員をされるときは、どのような点を重視して漫画を読まれるのでしょうか?

できるだけ読者の気持ちで、純粋に漫画を楽しみたいと心がけて読む。で、何度も何度も読んでその人の良いところを探す。一見つまらないけど、何か良いものを持ってるかもしれない。そういうものを探す。この作品では発揮できなかったけど、良い才能持ってるなっていうのはできるだけ見つけてやりたい。

植物で言うとね、良い芽が出ていることがあるんだ。大きく花開くような良い芽が出てるのに、まだ小さいからうっかりすると気がつかない。気がつかないで、この枝ぶりが悪いからって折ってしまうと、その才能はそれっきりになってしまう可能性もある訳だ。

だから、そんな才能を私が見逃さないように、できるだけ注意して読む。まだみんな新人だから表現とかがちょっと下手だったりもするんだけど、良いものを持ってるからこれは伸びるんじゃないかと思って選ぶと、どれも落としがたいんだよね。それで本当に苦しむことはよくあるけどね(笑)。

 

ちば先生の作品ではあまり恋愛や結婚が見られないので、ちば先生ご自身の恋愛観や結婚観を伺いたいのですが…。

不思議なんだけどね、こういう女性が良いな、こういう家庭生活が良いなっていうのはなんとなく思っていたらしくて、それは作品に描いてるんですよ。結婚する前にね。

『1・2・3と4・5・ロク』っていう私が描いた少女漫画があるんだけど、1〜5っていうのは子どもたち。1が一枝、2が次郎っていうふうに5人兄弟の話なんだよ。それでロクは犬の名前。そういう漫画を描いたの、ホームドラマみたいな。そしたらね、いつの間にか私にも子どもがぴったり5人。それにロクっていう犬も飼ってた。いつの間にかね。不思議だなと思って。

あと不思議なのは「ユキの太陽」って漫画を書いたんですけど、ユキっていうとっても活発な女の子の話でね。それも独身のとき描いたんだけど、今の私の妻がユキコさん。

だから知らない人はユキコさんと知り合ってから『ユキの太陽』を描いたと思って、『1・2・3と4・5・ロク』も私が家庭を持ってから描いたんだろうって言われるんだけど、そうじゃなくて全く会ったこともないときに無意識に描いたものなの。だから、自分がこういう家庭生活が良いなとかこういう人が良いなって思ってたのはなんとなく作品に表れてたのかな、って思いますね。

 

漫画家をされてきて、辛かったことや大変だったことはございますでしょうか?

最初は親に隠れて寝る間も惜しんで描いてたんだけど、あのときはこれほど楽しい世界はなかったんだよ。眠くても漫画描いてると楽しかったのに、お金をもらったとたん楽しくなくなっちゃったんだね。それどころか苦しくなっちゃったんだよ。それはね、責任が出てきたから。以前は自分が描いて自分が楽しめれば良かった。けどお金をもらったら自分が描いて楽しんでたんじゃダメなんだよ。これを買ってくれた人が楽しんでくれるかな、感動してくれるかな、笑ってくれるかなっていうことをすごく考えて描くようになった。

それでも、苦しくても書き続けてこれたのは何故だと思いますか?

 今は発表していませんけど、昔はページの横に「ちばてつや先生に励ましのお便りを出そう」って住所が載ってたの。今じゃ考えられないでしょう。それで訪ねてくる人もいたし、ファンレターもよく来たね。描いたものに対する反応がすぐ来て描きがいがありましたね。
 自分の描いたもので見ず知らずの人から北海道とか九州とか沖縄から手紙が来るでしょう。台湾から来たこともあった。海外の方からもファンレターが来ることがあって、当時は日本中、世界中で読んでる人がいるんだと思うとすごく嬉しかったね。

住所が雑誌に載っていることで何か怖い思いをしたということはありませんか?

怖いと思ったことはないけど、いきなり布団が届いたことが何度かあってね。これは何の布団だと思ったら次の日、本人が押しかけて来るんだ。弟子入りしたかったんだね。けど、場所がないから帰りなさいって言ったら、帰りの旅費持ってないんだよ。家出同然で来たようなものだから。だけどそれじゃあ親も心配するから電車賃を持たして、帰りなさいって次の日に帰らせたんだよ。そしたら家の近くを牛乳屋さんが通りかかるんだけど、どこかで見た顔だなと思ったらその子で、この辺りに住み着いちゃってるんだ。牛乳配達したり新聞配達したり、それからガソリンスタンドで働きながら漫画を描いてるんだね。もういないかな。まだいるかもしれない、ときどき会うんだよ。

後半へ続く

 

文=樋口瞬
撮影=ふるかわあきら

ちばてつや(CHIBA TETSUYA)プロフィール

1939年(昭和14年)1月11日、東京築地の聖路加病院で生まれる。
同年11月に朝鮮半島を経て、1941年1月旧満州・奉天(現中国・遼寧省瀋陽)に渡る。
1945年終戦。翌年中国より引揚げる。
1956年、単行本作品でプロデビュー。1958年「ママのバイオリン」で雑誌連載を始め、1961年「ちかいの魔球」で週間少年誌にデビュー。
主な作品に「1・2・3と4・5・ロク」、「ユキの太陽」、「あしたのジョー」、「あした天気になあれ」など。
社団法人日本漫画家協会常務理事。

関連記事


 
▲一番上に戻る