【後編】ちばてつやという人生の描き方 -描く人の責任感と倫理観- ちばてつや氏インタビュー

2012年8月26日 記事の公開日時 7:00 pm

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【後編】ちばてつやという人生の描き方 -描く人の責任感と倫理観- ちばてつや氏インタビュー
 
 

この記事はMAG! 2012春号に掲載されています。
詳しくはこちらをご覧下さい。

―最近、青少年健全育成条例などで表現の規制が厳しくなってきていますが、それについてはどうお考えですか?

やっぱり表現というのは基本的に自由であって欲しい。どんなことを描いても良い、どんな表現をしても良い、その代わり描く人が責任を持って倫理観を持って描いて欲しいと思います。法律で規制することは怖い。戦前も警察や政府が最初はまずエログロの小説を規制したんです。今までは自由だった。

たとえば春本、わかりやすく言うとエロ本というものはたくさんありました。それは以前からのびのびと楽しむ民族だった訳。日本で一番初めの小説と言われる紫式部の『源氏物語』だって主人公が次々と女性の所に通う話じゃない?浮世絵師の歌麿や北斎なども春画をたくさん描いて庶民はそれをおおらかに楽しんでいた。

だけど、第二次世界大戦の前こういう小説や絵を書くのはけしからんと国が取り締まり始めた訳ね。そのうち、映画や写真が取り締まられどんどん法律が厳しくなっていった。

 

まず取り締まりやすいものから取り締まる、エロ本だとかエロ漫画とか。それがだんだん新聞やラジオ、テレビ等いろいろなメディアにも繋がっていく訳ですよ。そうしてるうちに国民は耳を塞がれ、目を塞がれ、口を塞がれて、国に都合の良いことしか発表できなくなるでしょ。そういう時代を知っているからとても怖いんですね。

たとえば暗い、残酷な、汚い世界を描くなっていう法律ができるでしょ。そうすると明るい部分も表現できないんだよ。うんと暗いどろどろしたものが描けると、明るくてさわやかな部分も対照的に描ける訳。そういう世界がドラマでしょ。それを暗いものはダメ、汚いものもダメと言って全部蓋をしてしまって、明るいものだけで描けって言われると、人間臭い生きたドラマが描きにくくなっていく訳ですよ。そういうのが非常に怖いですね。

 

―最後に大学生へのメッセージをいただけますか?

今ね、若者たちだけでなく日本人はみんな自信をなくしている。いろいろな意味で夢や希望がないとか、一年前に起きた3・11の大地震とかで先が見えなかったり…。ただね、日本の民族っていうのはすばらしいと気が付いて欲しい。

戦後、私が中国から引き揚げて帰って来たときも、日本中の大都市が瓦礫の山で津波の後みたいに何にもないところに帰って来た訳。だけど、日本人はそこからみんなで頑張って世界の経済大国にまで復興したでしょう。すごい底力を持ってます。

他にも日本人は経済だけでなく世界に類のない伝統文化や技術、そして何よりも優れた人間性を持っている。たとえば、震災のときにみんな並んだでしょう。食料や水を配給するときにも、我先にと人を押しのけたりしないできちっと並んだでしょう。それでお年寄りや子どもを先にゆずったりね。そういう国は世界中どこにもないよ。そういう優しさを持って礼儀をわきまえているって意味で、日本人はすばらしい民族だと思う。

 今は本当に大変な時期ではあるけれど、みんな落ち込まないで、我々日本民族は本当にすばらしい民族なんだということに自信と夢と勇気を持って生きて行って欲しいなと思いますね。

文=樋口瞬
撮影=古川あきら

ちばてつや(CHIBA TETSUYA)プロフィール

1939年(昭和14年)1月11日、東京築地の聖路加病院で生まれる。
同年11月に朝鮮半島を経て、1941年1月旧満州・奉天(現中国・遼寧省瀋陽)に渡る。
1945年終戦。翌年中国より引揚げる。
1956年、単行本作品でプロデビュー。1958年「ママのバイオリン」で雑誌連載を始め、1961年「ちかいの魔球」で週間少年誌にデビュー。
主な作品に「1・2・3と4・5・ロク」、「ユキの太陽」、「あしたのジョー」、「あした天気になあれ」など。
社団法人日本漫画家協会常務理事。

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