空気なんてぶっ壊せ!空気に支配される私たち

キーワード:  , ,

2015年10月23日 記事の公開日時 4:00 pm

0

このエントリをはてなブックマークに追加

Pocket
空気なんてぶっ壊せ!空気に支配される私たち
 
 

この記事は2015春号に掲載されています。
詳しくはこちらをご覧ください。

見えないものを見ようとして

 目には見えないが、私たちは日々「空気」の存在を感じて生活し、支配されている。人と人が関わりあう場面で必ず発生する空気という概念。一体この空気とは何なのか。その正体に迫るべく、マグ捜査員(空気読めない)が社会心理学の専門家である東京国際大学の尾関美喜先生のもとを訪ねた。

「一言で空気と言っても、多種多様な用いられ方があります。例えば、その場の雰囲気という意味で用いられる場合や、暗黙の了解という意味などが挙げられます」(尾関美喜先生)

 次の日に一限の授業があるにもかかわらず、「雰囲気」によっては飲み会で席を立ちづらい、あるいは、「暗黙の了解」として、コンサートにおいて曲が終わる毎に拍手をするなど、様々な場面で「空気」は私たちに影響を及ぼしている。
 さらには、空気は日本社会に対してすら影響を及ぼしているのだと尾関先生は指摘する。 
 では、具体的には日本社会に対してどのような影響を及ぼしているのだろうか。

「良い影響としては、例えば東日本大震災の際にボランティアを志願する人が多数現れたこと、悪い影響としては、先の第二次世界大戦で軍部の暴走を許してしまったことなどが挙げられると思います」(同)

 なるほど、以上の二つの例は共に私たちが空気に便乗した結果である。社会への影響は私たちの生活に直結すると考えると、空気には多大な力があることは明らかだろう。
 では、日本人は空気に流されやすい民族なのだろうか。

「結論から述べると、流されやすい民族であると思います。一般的に日本人は他人との関係性を重視する民族と言われています。つまり、他者との関係が悪化するくらいなら、他者の意見に迎合してしまうのです。この背景から、日本は空気を重視する社会になっていったのではないかと思います」(同)

 このような気質は、日本がかつて村社会であったことに起因する。土地による結びつきが強かったことから、他者との関係性が悪化する可能性のあることは避けるべきであるという風潮が形成されていった。例えば江戸時代に五人組(注1)という相互監視制度があったように、日本人が他者との関係性を重視し、時には過度なまでに意識してしまうのは伝統的なものであると言えるだろう。

 しかし、他者に迎合したことによって得られた答えは必ずしも正しいとは限らない。時には「水を差す」ことが必要になる時もあるだろう。どのようにすれば、上手に「水を差す」ことができるのか。

「水を差すと自分が周りから嫌われたり、罰を受けたりするのではないか、と心配になると思います。そこで上手に水を差すために、組織作りの段階で、集団の中で普段から自分の思っていることを言ったとしても罰があったり、嫌われたりする訳ではないという『雰囲気』を作ることが非常に重要だと思いますね」(同)

 なるほど、各々が意見を自由に述べられるような雰囲気を持つ組織作りが大切なのだろう。
 ところで、一般的に組織における意見の取捨選択をする際に多数決を行うことが多いが、果たして多数決は最も優れた採決方法なのだろうか。

「多数決は目に見える数字という形で採択をすることができるので、全員が納得しやすい。そのため、現状では多数決が最も優れた方法であると思います。しかし、実は少数派の意見を持つ人が『あ、自分は少数派なんだな』ということに気付いた途端に多数派に転向してしまうことがよくあります」(同)

 多数決の過程で、転向によって少数派の数が実際よりも少なくなってしまうことを、心理学用語で沈黙の螺旋理論(注2)と言う。さらに、会議の最中には立場が低い人はどうしても発言を控えてしまう傾向がある。そこで、会議前にさほどフォーマルでない場を設けることで、空気に流されない意見交換が可能になり、沈黙の螺旋を打破できるのだと尾関先生は言う。
 最後に、人類全体の幸福を切に願うマグ捜査員が、沈黙の螺旋から脱し、各々が自分の意見を自由に述べられる社会になるために必要なことを伺った。

「どのようにすれば創ることができるのかは、あまりにも要素が多いため一概には言えないのですが、やはり重要なことは、多様性を認め、他者を尊重することでしょう」(同)
 
 他者の意見を許容するということは、言葉で述べることは簡単だが、実際にしてみようとすると存外に難しい。特に、組織内においては派閥、上下関係など様々な障壁があるだろう。そのような障壁を乗り越え、空気による場の支配を打破していくことこそが、今の社会を生きる私たちの責務なのだろう。
(文=小嶋恭輔)

注1:江戸幕府が町村に作らせた隣保組織。近隣の五戸を一組とし、互いに連帯責任で火災・盗賊・キリシタン宗門などの取り締まりや貢納確保・相互扶助に当たらせたもの
注2:多数派によって少数派の意見が意図的に無視・軽視され、少数派が沈黙を余儀なくされる過程を示したもの

尾関美喜(OZEKI MIKI)
東京国際大学専任講師。専門は社会心理学。著書に『APA心理学大辞典』(2013年、培風館)、『社会的迷惑の心理学』(2009年、ナカニシヤ出版)など。

関連記事


 
▲一番上に戻る