【2016冬号】メインインタビュー 是枝裕和

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2016年2月20日 記事の公開日時 4:00 pm

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【2016冬号】メインインタビュー 是枝裕和
 
 

この記事は2016冬号に掲載されています。
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自分の考えや思いを表す方法は実に様々である。ある人はダンスで、ある人は詩で自分を表す。今回は、「誰も知らない」「そして父になる」「海街diary」等の作品で国際的に高く評価されている映画監督である、是枝裕和監督に様々なお話をお伺いした。

 

『映画をなるべく人生に近付けたいと思っている』

 

是枝監督の作品のテーマとして、家族が取り上げられることが多いと思うのですが、それはなぜでしょう?

「自分の両親が亡くなった時に、自分が誰の子供でも無くなったという感覚があったんだよね。そして子供ができて、父親になって、自分が家族の中で息子から父親に立場が変化していく中で、自然と家族というものが自分の中で重要なテーマになっていった。僕は映画を撮るときに自分の身近なものを掘り下げようとするので、結果として家族をテーマにすることが増えてきているんです」

 

作品のテーマというと、抽象的で壮大なものであると思ってしまいがちだが、そうではない。むしろ、自分が日々思い、感じている身近なことがテーマになるのだと是枝監督は語る。

 

是枝監督2修正

 

次に、作品の世界観を構築するときにはどのようなことを意識しているのかを伺った。

「キャラクター作りに関しては、自分の経験だけでなく、他人から学んだことを沢山盛り込んでいます。だって、自分の経験だけだったら、全部自伝になってしまうでしょ?(笑)あとは、細部のリアリティーの追求。この登場人物は年収がいくらであって、服はどのくらいの値段のものを着ていて、家の敷地は広いか狭いか、とかね。映像は一つ一つの要素が様々なことを見ている人に伝えるから、どれも大切な要素なんだ」

 

細かい要素が映像をパズルのように構成している。一つ一つのことを大切に、そして慎重に決めていくことが重要なのだろう。映画を鑑賞する時にも、様々な角度から見ると新たな発見があるかもしれない。では、映画の中でも重要な要素の一つである演技の上手さはどこに現れるのだろうか?

「僕は大別して二つあると思う。一つ目は耳。きちんと相手の言葉を受け止めることができるか否かが重要。事前に自分が考えた通りの演技しか出来ない俳優もいますから。そうではなくて、きちんと相手の台詞を受け止めた上で自分の台詞を言うことが大切。二つ目は、その映像のシーンの中で、何十年も生きてきたであろう人間としての振る舞いをすることができるか。つまり、シーンの中で、人、物、光、全ての環境と関係を作るということ。今まで関わってきた俳優さんの中では樹木希林さんはとてもその作業を丁寧にされる俳優さんだった。あと、YOUさんは少し特別な俳優。YOUさんはバラエティー出身の人なので、他の俳優さんと比べてコミュニケーションの能力というか反射神経に優れているの。だから、撮影現場にいてくれるとすごく助かる。何より演技が固まらない、自由だから見ていて面白い。多くの俳優はテイクを重ねるに従ってある程度演技も固まってくるのだけれども、YOUさんにはそれがないのです。演技というものは、固まっていれば良いというものでもないんだ。とても奥が深いよ」

 

是枝監督1修正

 

相手とコミュニケーションをとり、その映像の中で生きている人間を演じること。まさに、日々の我々の生活と演技は密接な関係にあるのだろう。ところで、是枝監督の作品の終わり方はなんとも言えない曖昧なものが多いが、それはなぜなのだろうか?

「僕がハッピーエンドでなければバットエンドでもない、オープンエンディングにする理由は人生ってそういうものだと思うから。映画をなるべく人生に近付けたいと思っている。映画には終わりがあるけれど、作品の中の世界はまだまだ終わってないからね。具体的に言うと、「そして父になる」も、あの後親子の関係がどうなっていくのかは分からない。それは、見た人によって変わってくるだろうし、そうであるべきだと思う」

 

映画は作る側の人間が見る側に一方的に提供するものではなく、作品を通じた二者間のコミュニケーションツールであるのかもしれない。それでは、われわれが映画を見るときに意識すべきことはあるのだろうか?

「特にない(笑)映画は見る人によって感じ方が変わってくるものだと思うから。人生経験が見方を大きく左右する。だから、今自分が素直に感じたことが一番の正解なんだよ。僕自身10代の頃は全然面白くなかった映画が、40代になってとても面白く感じたりする。そうやって人の成長に合わせて、見た時によって感想が変わってくる映画が良い映画なのだと思う」

 

不朽の名作と呼ばれる作品がそうであるように、良い作品というものは老若男女、時代を問わずに多くの人に感銘を与えるものなのだろう。ところで、様々な作品を世に送り出してきた是枝監督だが、いつ頃から映画を作ろうと思ったのだろうか?

「僕は元々は小説家志望だった。ただ、大学生になってから映画にハマって、毎日映画館に通っていたら、いつのまにか映画を撮りたいと思うようになった。早稲田にはたくさん映画館があったからね。サークルとかには入らなかった。上下関係を意識しないといけない環境は僕には向いていないのだと思う。だから、大学5年間ずっと一人行動してました。一人で映画館行って、本読んで。でも、あまり大学生活に後悔はないよ。映画という一つのことに打ち込むことが出来たからね。授業にも全然マジメに出なかった(笑)」
大学時代を通じて映画という自分の進む道を見つけ、そしてそれに打ち込んだという是枝監督。現在母校である早稲田大学の教授も映画制作の傍ら務めているが、教育ということにも興味があるのだろうか?

「僕、実は教職を大学時代に取っている。ただ、教育実習で失敗した(笑)というのも、僕が教育実習に行った学校は、生徒のことを校則でガチガチに拘束しようとするところだった。朝礼前に、生徒の持ち物検査と服装検査を必ず毎回行うんだよ(笑)信じられないでしょ?だから、僕反発して、「そんなことはやりたくない」って言ったの。そして事実やらなかった。そうしたら、もう、学校と僕の全面戦争になっちゃって。そして最終的に「君みたいな人間は教師になるべきじゃない」と校長に言われて。散々だった。なんとか単位はもらえたんだけれども、評価は最低だった。ただ、教えること自体は嫌いじゃないので、今年の春学期は週に三日も早稲田大学に来て授業をした。それに、学生のリアクションから新しい発見をすることもある。まさに、様々な見方があるということを実感します」

 

取材していて分かったことだが、是枝監督は様々な経験をお持ちで、とても人間臭い一面がある方である。そのような経験が今の是枝監督の魅力を形成しているのかもしれない。

ところで、是枝監督は今の学生について、実際に授業を通じて感じたことがあるという。

「今の学生はかわいそうだと思う。僕の頃は大学がとてもルーズで、暇な時間が沢山あった。今の学生って就活とか資格とかすごく忙しいじゃない。とにかく、実用性が高いことをしようとしているよね。小説じゃなくて新書を読んだりさ。ただ、今現在役に立つと思っていることと、後になって役に立つことって全然違うからね。以前は役に立たないと思っていたことが、後々になってすごく大切なものに昇華するということはよくある話。だから、学生に向けて言いたいことは、すぐ役に立つことばかりしてはいけないということ。それに、好きではないことを嫌々やっても身につかないと思うよ。受験勉強的知識ってすぐ抜けてしまうでしょ?」

 

ハッとさせられた。実用的なこと、そうでないこと。その境目は思っている以上に曖昧なものなのかもしれない。それに、すぐに役に立つことが優れているとは限らないのだ。

最後に、是枝監督自身を一言で表してもらった。

「『楽』。今、50代だけど人生で一番楽しいからね。楽しそうにしている大人がいないと若い人も不安になっちゃうでしょ。この先も今が一番楽しいと思える人生を送りたいと思います」

 

是枝裕和 プロフィール
1962年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出。95年に初監督作品「幻の先」が第52回ヴェネツィア国際映画祭でオゼッラ・ドゥオロ賞を受賞。04年の監督作品「誰も知らない」で主演を務めた柳楽優弥がカンヌ映画祭で最優秀主演男優賞を受賞。13年の「そして父になる」ではカンヌ映画祭審査員特別賞を受賞。国内外を問わずに広く活躍している。

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